第十六回「TENKO_SEI」


 ひとつの間(はざま)
 に
 ひとつ
 の
 影
 間(アイ)は
 静かな焔(ほのお)



 薄灰色の雲が煙る空が職員室の窓の外に拡がっている。みずきは早く梅雨が明けたらいいのになあと思う。校庭と校舎からは児童達の朝の賑わいが漏れ聞こえている。傍らの友美さんは少し心配そうな顔をして「だいじょうぶ?」と訊ねた。
 それはこれからの学校生活を心配する事ともう一つの心配を内包した言葉なのをみずきは判っている。
「だいじょーぶだよ。心配しないでおかーさん」
 とは言ったものの、言った本人が不安でたまらなかった。グレーの事務椅子に腰掛けた40代くらいのやや肥った体格の女性教師はその経験からくる余裕の笑みを浮かべてしきりに友美さんの事を「美人のお母さん」みずきの事を「かわいらしいお嬢さん」と呼び、二人を照れさせた。提出書類を読みながら「あら、お家は漢方薬局なの。知ってるわ何回かお茶を買いに言った事ありますわぁ」と大袈裟に話し、しきりに親近感をアピールした。
イメージが違うと思うです(^^;;; なんか絵柄も違うし…。 みずきは緊張しまくっていて下ばかり向いていた。しかし今着ている真新しい白い半そでのブラウスと紺の吊り襞スカートのこの四田市立南が丘小学校の標準服(制服とは言わないらしい)が何だか嬉しかった。ちょっとスカートの端をつまんでみたりなんかして。昨日の日曜に学校指定の制服屋さんで買ってもらったばかりだ。妹のちひろは試着して鏡台の前でくるくると回るみずきを見て「ちーちゃんもあれ着たい」とだだをこねていたのをみずきは思い返していた。
 みずきが目を滑らせると、一昔に流行ったゲームの動物キャラのシールがみずきが転校して来たこの小学校の担任の森木先生の机の引出しに貼られているのを発見した。
「ま、最初ですから何かと戸惑う事もありますでしょうけど、はよ馴れるしかないですから。ほんならみずきちゃんも先生と一緒にがんばろね」
 みずきの新しい担任の森木明子は独身でこの小学校の過半数を占める女性教諭の中でも年長の部類に入る教師で運動会などの行事の内用も取りしきるベテランで生徒の人気も高いがその経験故からの傲慢さから一部の反抗期な児童からは煙たがられていた。何事に対しても少々押しつけがましいからだ。みずきは森木先生の激励の言葉にただ「はい」とだけ答えるのがやっとだった。
「じゃ、みずき。お母さん帰るけど大丈夫ね?」
 ああ、帰ってしまう。
「うん、だいじょーぶだよ」
「帰りに幹人さんに迎えに来て貰うように言っといたから。期末試験前だから今日は授業午前中だけだって言ってたから」
「えっ!?」
 みずきはあからさまに嫌な顔をした。
「嫌なの?」
 友美さんはみずきをやや斜めに睨んでにやりと笑った。
「幹人さんて誰ですのん?」
 森木先生は少し思い出すように聞いて来た。
「お、おにーさんです」
 みずきが歯切れが悪そうに言うと、森木先生は両手を叩いた。
「ああ、生方君か。去年、四学に入った。覚えてる覚えてる。なかなか優秀な子ーやったわ。波止(はと)せんせー。この子、生方君の妹さんやってー」
 向こう岸の机でお茶を飲んでいた森木先生よりもう一回り若いやはり女の先生がこっちを向いた。
「妹さん?生方君に妹って居はったっけ?」
 と言う彼女に森木先生は友美さんに視線を移して目くばせした。「ああ」という顔をした彼女は何かを取り繕う様に「お兄ちゃんは優秀やったで。キミも頑張りや」
と軽く言うと椅子に座り直した。と同時に始業のチャイムが鳴った。
「そしたらお母さん。みずきさんは預らせて貰います。行こか、生方さん」
「はい」
「よろしくお願いしますね。じゃ、しっかりね、みずき」
「うん」
 みずきは森木先生の後について東校舎の二階まで来た。この小学校は西校舎の一階が一年生、二階が三年生、三階が四年生、二階建ての北校舎が二年生、そしてここ東校舎の二階が五年生、三階が六年生という配置になっており、三つの校舎がコの字に校庭を取り囲んでいる構成になっている。そして南に体育館とプールがある。
 5年3組。
 みずきがその教室の扉の前に着いた時、緊張と焦燥とその他もろもろの感情が胸の奥から込み上げて来て爆発寸前だった。
 可哀想なくらい縮こまるみずきのその様子を見て森木先生はまるで「借りてきた猫」の様だと思った。

「愛媛県から転校してきた生方みずきさん。お母さんが再婚されて今日からこの学校で勉強する事になりました」
 と、型通りの紹介が終わると36人の、正確には一人欠席しているので35人の児童の目がみずきに一点集中した。生まれて初めて多人数の注目の的になったみずきは思わず足が震えた。
「あ、あ、あの生方みずきです。よ、よろしくお願いします!」
 上擦った声で挨拶すると「はい拍手ー」という森木先生の声でパチパチと拍手が沸き起こった。「けっこー、可愛いやん」おそらくクラスの盛り上げ役であろう男の子が内気な他の男子の感想を代弁した。
「ど、どうも…」
 みずきが恥ずかしさで顔を赤くしながら絞り出す様な声で応えると。周囲がどっと沸いた。「信用したらあかんで、こいつ悪人やから」別の男子が掛け合いを始めるように声を上げた。それでまた笑い声が起こった。
「そしたら生方さんは窓際の後ろから二番目の、あの新しい机の席に座って」
 先生がそう言うと。「特等席や」と教室の後ろから声が上がった。
「先生また席換えしてえな」「先々週したばっかりやん」「もう飽きた」
「おまえ江口の横に座りたいだけちゃうんか」「おおー!」「そやったんか」
「ウチ知らんかった」「ちゃうっちゅうねん」「隠すな隠すな」
「はいはい、みんな静かに」と、先生の声でざわつきは一旦静まった。
 みずきは無意識に頭の寝かした耳を片手で押えながらおずおずと歩いて指定された席まで歩いて行った。ふと自分の席の後ろも空席なのに気がついた。今日は休んでいるのだろうか。
 そしてただ一人、出席番号十七番の男子児童、山村丈だけが自分の席の横を通り過ぎるみずきが全く足音を立てずに歩いて行った事に気づいた。

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ドリキャスでも見られるように640X480に合わせて見ました。
が、1152X864だとバランスが変だよぉ(TT)
どういう制服、つーか指定服なのかな(^^;
そのうち詳細あわせましょう>桜島液

頭に浮かんだちょう小学生な制服のイメージだとみずきにあわないし…
つーわけでこんな感じ。

作画の変化は仕方ないですね。
最近読んでた本とかのイメージと従来との平均化みたいな感じです(^^;

エイリアン9に、さんずいさんの同人誌に、こみパにエンジェリックレイヤーに…
ちなみに時代はぴこぴこハンマーです。
ぴこぴこ〜(><)

あー、心にひびくぅ。