番外編「KANWA-KYUーDAI〜Octopus Attack〜」

 
 ……。
 あたしっ生方みずき。自分で言うのもなんだけど、ちょっとかわいい小学五年生の女の子!
何だかよくわかんないんだけど、奥間の者って言う一族の末裔なの☆
ちひろ「おねえちゃん、わあい」
 この子はあたしの妹で四歳になるちひろ。あたしに似て、とーってもかわいいの!
ちひろ「えへへへ」
友美「お魚はDHAが含まれていて健康にいいのよ〜」
 この人があたしのおかーさんの友美さん。普段はにこにこしてるけど、怒ると、
とーってもこわ〜いの。
繁「にょほほほほほ〜」
 この人はおかーさんの再婚相手の繁さん。そしてあたしの今のおとーさん。
優しくて、おこづかい、いっぱいくれるから好き☆
岬「よっしゃー、万馬券ゲットお!」
 おとーさんの妹さんの岬さん。おばさんと言ったら怒るので、岬おねーさんと呼んでます(呼ばされてます)。内緒だけど、少しオヤジくさいです…。
幹人「はあはあはあ」
 ……。
幹人「はあはあはあ」
 …で、この人が最近、あたしのおにーさんになった人で幹人って言うの。
幹人「はあはあはあはあ…み、みずきぃ…」
 んー。えーと、時々、とってもえっちだし、意地悪されるから、すっごい腹がたつんだけど、…たつんだけど、悪い人って訳じゃないんだよね。そういう時は、あたしの方が悪い時もあるんだし…。たまに助けてくれるし…。
 ま、そういう訳で以上があたしの家族なの。
裕子「あの、あの、あの…」
 あ、この人はあたより一つ年上で道家裕子さん。径間の者って言う、あたしとよく似た一族の犬チックな女の子。以上。
裕子「あの…、みずきさん、私、それだけなんでしょうか…?」
 あたし裕子さんの事、まだあんまりよく知らないもん。
裕子「しょんぼり…」
幹人「はあはあはあはあ…ゆ、裕子ちゃああん…」
 後、女の子ロボットの沙居さんとか
沙居「ロボットちゃうって」
 色々いるけど、割愛して、今回は番外編。題して「閑話休題・蛸、襲来」行ってみよう〜。
ちひろ「わあい」
幹人「はあはあはあはあ。…ウッ、………ああ、…気持よかった……」
(…ナニしてたんダロ?)


「ここやなあ…」
 季節は葉っぱが色づき始めた十月初旬の秋の頃。
 少女が顔を上げると、そこは『生方漢方薬局店』という電照看板が掲げられていた。そして店先に視線を移すと、その少女と同じくらいの歳の女の子が長い竹ぼうきで掃除をしていた。
「あのさ、あんた、ここの子?」
 問いかけると、頭に水色のバンダナを巻いた女の子がほうきの手を止めて顔を上げた。
「え?そーだけど」
「もしかしてやけど…、もしかして、あんた、お兄さんって、居はる?」
「お、おにーさん…」
 バンダナの女の子は眉間に少しシワを寄せた。
「そう、確か生方幹人って人やけど」
「…………い、いるけど…」
「おねーちゃーん!」
 そこに小さい女の子の声が聞こえてきた。
「あ、ちひろ……み、耳、耳ー!」
 バンダナの女の子が大声を出すので少女が何事かと振り返ると、幼稚園くらいの女の子が両手を頭につけて走ってきていた。
「だめじゃない、ちゃんとしてこなきゃ…」
「ごめんなしゃい……だれ?」
 小さい女の子は少女をひょいと見上げると、両手を頭につけたままにこーっと笑った。
「かわいい子やなあ」
 少女が笑い返すとバンダナの少女はまるで自分が誉められたかのように
「あ、この子、あたしの妹で、ちひろって言うの。あたしは生方みずき」
 と笑いかけた。
「ウチは…えり子。蛸薬師(たこやくし)えり子って言うねん」
「…タ、タコ?」
「今、なんか思たか?」
 えり子はギロリとみずきを睨んだ。肩まで伸ばした髪を赤い髪飾りで片側だけ結った、見た目はかわいい子だったが、何だか気の強そうな女の子だった。
「う、ううん。変わった…苗字だね…」
_____________________________________
<まめちしき(´ー`)>
たこ-やくし 【蛸薬師】
   京都市中京区の妙心寺(永福寺旧蔵)や東京都目黒区の成就院などの薬師如
来の俗称。婦人病・小児病・禿頭(トクトウ)などに霊験があるとされ,タコの絵馬
を掲げて祈願する風がある。多く,薬師が海上をタコに乗って渡来したという口碑
をもつ。
_____________________________________

「言うとっけど、苗字がヘンなんはウチのせいとちゃうからね。一応、由緒ある名前やねんからね」
 えり子は腕組みして胸を張った。
「ふうん…で、お店に用事なの?いちおー、ウチの店も由緒だけはあるらしいから」
「ううん、ちゃうねん。買物に来たんやなくて、ウチは…」
「はい?」
 みずきはちひろの頭を抱きながら、えり子の言葉を待った。

 幹人はドキドキしていた。幹人は学校では卓球部(俗称ピンポンパン部)に在籍している。そこの先輩から秘蔵のエロビデオとエロ本をしこたま貰って来たのだ。
「お楽しみやのお、生方。ま、あんまり頑張りすぎんように」と言う先輩の卑猥な笑顔が思い出された。幹人にとってソレ系の唯一の供給源であった友人の連義史がこの夏に鎌倉に転校してしまったので、この数カ月、オカズが途絶えていたのだ。
(友美さんにみつかったら死ぬほど恥ずかしいし、また、みずきにみつかったら、どんな顔されるか分かったもんやないからなあ)
 ああん、どこに隠そうかなあ。
 幹人が震える手でブツが入った学生カバンを開けようとした正にその時、
「おにーさん、たいへんだよー!」
 バーンと、音を立ててみずきが部屋の中に入って来た
「うわああああ」
 幹人は学生カバンを抱えたまま、ベッドにヘッドスライディングをかけた。
「何すんねん、ノックせんかいノックを」
「あ、ご、ごめんなさい。あのねー、たいへんだよ」
 幹人は薮睨みでみずきの顔を見た。そして、みずきの感情の『匂い』が幹人の脳に染み込んでくる。
「…誰か来たんか?」
「う、うん。よく分かったね。そーなんだよ。女の子だよ」
「え、女の子☆?」
 幹人はガバっと立ち上がった。
(た、卓球部のマネージャーが俺んとこなんかに来る訳はないし、裕子ちゃんは来たくらいではたいへんや無いしなあ)
「さ、えり子ちゃん…」
 みずきに即されて、後ろから誰かが中に入ってきた。
「お兄ちゃん…」
「へ?」
「幹人お兄ちゃああああああああああああああああん」
 えり子は幹人の部屋に入るや否や叫びながら幹人に抱きついた。
「え?」
 幹人はびっくりしたが、ドアの脇に立っていたみずきもびっくりした。
「だ、ダレデスカ?」
「ウチやウチ。お兄ちゃんの妹のえり子や」
 そう、幹人には離婚した母親に、父親違いの妹がいる。名は蛸薬師えり子。歳は…みずきと同じ小学五年生のはずだ。
「えり子か。そうか久しぶりやな。母親は元気か?」
「ママ?あの人は殺しても死なんわ。ウチ、ママとケンカして家出して来てん!もう帰らへんから、ここに置いて!」
「ええーっ?」
 と驚きながらも幹人はえり子の身体をずーっと抱き締めていた。やーらかくて気持ちが良かったからだ!それを見ていてみずきは、だんだんとムカムカしてきていた。
えりP。ココに置くとなんか違うなぁ(--)もっと可愛く描きたかったんですけど失敗。つーか意地悪的部分を外せば単純に可愛くなるのですけどそれってなんか違うし描いちゃったからそのまま(^^;個人的に気に入ったので再登場期待してます。>液「ところで、お兄ちゃん」
「なんだい?えり子」
 幹人は標準語になっていた。
「この子、お兄ちゃんのホンマの妹なん?」
 えり子はみずきに向かって振り返った。
「いや、みずきは再婚相手の連れ子やから…」
「なんやぁ、よかったあ」
(事実だけど…なんかムカつく)
 みずきは咳払いをすると
「でも、ちひろは母親違いだけど、おにーさんの妹だよ」
 と言うと、えり子はすかざず返した。
「あの子はかわいいから別にええわ」
(どーゆー意味よ?)
 そこに憔悴した顔の繁がやってきた。
「あ、おとーさん」
「おい、明美の娘はここにおるか?」
 えり子は立ち上がって繁に向かってペコリとお辞儀をした。
「ご無沙汰してます、おじ様」
「おじ様…ええ響きやなあ(ウットリ)…いや、それはどうでもええとして、明美がこっちに来るで」
「ええっ、ママが来るの?なんでですか?」
「なんででって、そら迎えに来るからやろ。さっき携帯から電話あったわ」
 えり子は再び、ひしっと幹人に抱きついた。みずきの顔がひきつった。
「いやや、帰らへん。もうママなんかの所に戻らへんもん。ママったらパパが何も言わへんのええ事に若い男の人とつきあってんねん」
 しーんと幹人の部屋は静まり返った。
「…あの女も相変わらずみたいやなあ」
 いったい前の奥さんと何があったのかと、みずきは不思議そうに繁を見上げた。
「お願いします、おじ様。ここに置いてください」
「そう言うてもなあ」
 外から猛烈なエンジン音が響きわたって来た。
 幹人は何事かと窓の外を見ると、店先に赤い高級スポーツカーが停まっていた。
「あ、フェラーリや。珍しいなあ。誰やろ?」
 幹人の言葉に悲壮な顔をしたえり子が立ち上がった。
「ママや。もう来たんか」
 廊下からドタドタと足音がしてきた。慌てた顔の岬だった。
「兄さん、たいへんや、明美さんが来たで!」

 居間のソファーには紫色の高級ブランド服に金の腕輪を身につけた中年の婦人が座っていた。
灰皿には既に口紅がついた吸い殻が三本、もみ消されいる。
「あ、あの…お茶です」
 友美さんがおずおずとお茶を出すと、微笑を浮かべた蛸薬師明美は余裕の表情で友美さんを見上げた。
「あんたが、あの人の新しい再婚相手?」
「は、はいそうです…」
「ふうん、びっくりしたわ。あの人がこんなに美人の嫁さん貰えるなんてなあ」
「あ、ありがとうございます」
「あの人に、なんか、薬とか飲まされへんかった?エッチな気分になる薬とか。あの人、先祖伝来か何や知らんけど、変なクスリばっかり作っとたからなあ」
「そんな事はありませんでしたっ」
 友美さんはやや怒った調子で言った。
「私も若い頃、よう実験台にされたもんや。あの人、好っきやからなあ…あんたもたいへんやね。夜とか、ヘンな事ばっかりされるやろ?」
「されてませんっ…」
「あんた、カワイイなあ」
 ケラケラと笑う明美と友美さんの様子を見ていたみずきは呆気にとられていた。
(おかーさんが、あのおかーさんがえり子ちゃんのおかーさんに押されてる?)
 明美は四本目のタバコに火をつけるとフーッと上下角四十五゜の空間に煙を吐いた。
「ま、幹人も世話んなってる事やし、あんまりイケズ言うのはやめとくわ。
幹人もそろそろ年頃やしなあ、そや、あんた教えたってーや」
「な…なにをですか?」
「筆降ろしとか色々やん」
 友美さんが返答に困っているのを見て明美はケケケケと笑い始めた。
「明美さん!」
 岬が割って入った。
「あらン、岬ちゃん、ご無沙汰ぁ。まだ独身なん?まさか、あの妻子持ちの男の事、引きずってんの?」
 ワナワナと震える岬を見兼ねてえり子が耐えきれずに部屋の中に入って行った。
「ママ、やめてーや。恥ずかしいやん。他人の家で」
 えり子の姿を見るやいなや明美は笑顔から真顔に豹変し、すっくと立ち上がった。立ち上がったと同時に装飾品がジャラジャラと音をたてた。
「えり子、帰るで」
「人の話、聞いてよおおおお」
「言いたい事があったら三十秒以内に簡潔に答えっ」
「じゃ、じゃあ言うで。パパがいながら松尾さんだっけ?若い男の人と付き合って
るってどういう事なん?」
「えり子」
「なんやのよ?」
「不倫は文化だって石田純一も言ってるでしょう?私は石田さんの意見に賛意を覚えると、有り体に言えばそういう事よ」
 明美はエヘンと胸を張った。その豊満なバストはここにいる女性陣の中でも際だっていた。
 ああ、と幹人は妙に納得した。親父はこの身体に惑わされたのだと。繁は一番目立たない所に立っていた。
「幹人」
 明美は幹人の方を向いた。
「何ですかお母さん」
 みずきも幹人の方を向いた。そーなのだ。この明美さんは、おにーさんの母親でもあるのだ。でも全然似てないじゃん。みずきは、またも呆気にとられて両者を見つめた。
「ま、がんばれ。この家、嫌んなったら、いつでもウチ来てええし」
「考えときます」
「さ、えり子。帰るで」
 えり子はあとずさった。
「いやや、ウチは幹人お兄ちゃんと結婚してここに住むんや!」
 明美、えり子母娘を除く全員がその場で凍りついた。(ちひろは隣の部屋で絵本を読んでいる)
「え、えり子ちゃん…あのね…」
 岬が冷や汗を流しながら話し始めると、それを明美は右手で制した。そして幹人を見た。
「幹人」「はいっ」「もう手ぇつけたんか?」かぶりふる幹人を尻目に
「ふむ、近親相姦は蜜の味って言うからなあ。禁断の愛か…それもまた一興。よし。許す」
明美が扇子を開きながら言うと、明美、えり子母娘を除く全員が口をあんぐりと開けた。
「ママ!ありがとう!」えり子はぴょーんと飛び上がった。
「そ、そんなのダメだよーーー!」
 みずきは思わず大声をあげた。この母娘はおかしい。と言うか狂っている。みずきはみずきの中の倫理観でそう感じて言った。
「えり子、ピーンチ。ライバルが出現や!」
 と、明美が叫んだ。その途端、えり子の敵意のこもった視線がみずきに突き刺さった!
「なあ、えり子。ここは体勢を建て直そう。ママも松尾さんとは切れるわ。って言うか、そろそろ飽きて来た所やったし。だから、えり子も一旦、家に帰ろう。そうしよう。な」
「わかったわ、ママ」
 二人は帰る事になった。最後にえり子は振り返りざま、「アイシャルリターン!」と叫んでみずきに向かった中指を突き立てた。
「……」
 そして、帰り際、明美は玄関先で幹人の肩に手を置いて耳もとに囁いてきた。
「ま、えり子の事は置いとくとして、あの奥間の女の子、みずきちゃんやったっけ?大事にしいや。それにしても、間使いはたいへんやねえ」
 と言って小さく笑った。
 何?知ってるのか?幹人は驚いた顔で母親を見つめた。確か繁は明美には言っていない筈だ。明美は謎めいた微笑を浮かべて、えり子を連れて帰って行った。
「幹、塩撒いとこ、塩」「あたしも岬おねーさんに賛成」「わあい、ちーちゃんもするー」
 そして、その後ろでは友美さんが繁を問い詰めていた。
「繁さん!あの人と、いったいどんな事、してたんですかっ?」
「終わった事やんけええ」
 しかし、いったい自分の母親は何者なのなのだろうかと、幹人は恐くなった。そう言えば蛸薬師は明美の実家の名前だった事を今さらながらに思い出していた。
「繁さんのばかーっ。私にも秘密なんですかー?」
「おおぅ、そんなに言うなら今夜、おまえにやってやろうじゃねえか」
「だから、どんな事してたんですかー?」
「ヒヒヒヒ、楽しみやなあ」
「ちょっとー」
 繁が謎の笑いを浮かべている。
 あれが最後だとは思えない。第二、第三の…幹人はそう思うのだった。
(ううむ、そう言えば、早くエロ本の隠し場所探さんとなあ…)
 幹人はみずきの見た目、難しそうな顔をして腕組みをするのだった。



番外編「KANWAKYUーDAI〜Octopus Attack〜」


(次回からは通常に戻ります)
次回、第三十五回「YAMI」